2011/02/23 01:30

誰に向けてニュースを選ぶ?〜『JCEJ』のワークショップから

  ポータルサイト・YAHOO!のトピックス、ご覧になりますか。私も新しいニュースをよくチェックします。ちなみに、この文を書き始めた時点のラインナップは以下のようなものでした。引用させていただきます。内容を当ててみましょう。

 1 自民と経団連 予算対応平行線 
 2 離島奪還 民間船転用を検討  
 3 不正アクセス 小4女児を補導
 4 続くデモ いらだつエジプト軍
 5 ガムかむと、正答率15%アップ
 6 終了間際 GKヘッドで同点弾
 7 オリ駿太「内容良すぎ」1軍へ
 8 原西の「大好き」に藤本号泣

  1は、すぐ分かりますね 2 離島が他国に占拠されたら、自衛隊の即応に民間船を借りよう、という話 3 ネットのゲームサイトで他人のIDを不正に使った小学生の話 4 エジプトで市民がさまざまな生活要求を掲げたデモの広がりに、いらだつ軍の話
  5の正答は何でしょう? 高齢者にガムをかんでもらい、写真の組み合わせを問うた調査で、2割の人が正答率を15%アップさせたという話 6はスペイン・サッカーで、試合終了間際に攻撃参加したGKが同点引き分け弾を決めた話 7は、オリックスの新人の予想以上の出来に、岡田監督が1軍帯同を決めた話 最後の8は、アイドルと結婚式を挙げたお笑いコンビの男性に、相棒がエールを送って大喝采という話。

  事前に他のメディアのニュースを知っていれば別ですが、私は1と4以外は、「奪還?」「え?女児が何?」「ガムをかむと脳にいい?」「オリ駿太って?」「”原西”ってお笑いだっけ?」と、謎が次々に浮かんで、気になってみなクリックしました。それが見出しを付けたトピック編集者の狙いなのでしょうか。

                          ◇

  私は駆け出しの頃、新聞のレイアウトや見出しを作る整理部を経験しました。もちろん今も毎日、見出しにはお世話になっています。
  新聞記事は、主見出し(8〜9文字)と脇見出し(11〜12本)でまず表現されるのが、長年の基本です。新聞の場合には、それが簡にして潔で、主語が明確に分かり、内容が正しく一目で、忙しい読者にも伝わらねばならない−という鉄則があります。
  熟練すると、まるで俳句や小話のむように、「なるほど」と読み手をにニヤリとうならせる職人芸にもなります。  

  それに比すると、YAHOO!トピックスは、13文字の1本見出しで、必ずしも主語は示されず、それだけで完結したものにはなっていません。 どんなポリシーがあるのでしょう。 YAHOO!JAPANの伊藤儀雄さん(編集本部メディア編集部)にお話を聴く機会がありました。
  それによると、YAHOO!ニュースは、月刊44億5000万ページビューがあり、内外100以上の報道機関と連携し、1日3500本以上のニュースを伝えているそうです。
  独自の取材体勢はなく、マスメディア、新しいメディアを含めて「いま、何が伝えられているのか、を伝えるメディア」を役割とし、リアルタイムで機械的に流す速報とともに、より高い価値のニュース24時間3交代のスタッフが選ぶ8本の「トピックス」がある、とのこと。
  8本の構成は、1 国内 2 地域 3 海外 4 経済 5 コンピューター 6 サイエンス 7 スポーツ 8 エンタテイメント−だそうです。  

  さて、なぜ「13文字」なのか?−について伊藤さんは、「人間が意識しなくても(一目で)内容を読み取れる限界が13文字」という根拠の学説があることを紹介し、また主語やキーワードの固有名詞がなくても13字内で「それを読み手に想起させればいい」をルールにしているそうです。
  
  新聞社の昔の整理部は、「見出し1本 たばこ◯本」などと言われ、整理記者の机の灰皿は吸い殻の山、部屋も煙がもうもう。締め切りに追われる見出し作りはストレスのたまる作業でしたが、上記の例のように、YAHOO!ニュースのスタッフの苦心も同様かもしれません。

                     ◇ 

  伊藤さんのお話は、「日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)」(同face book)が2月19日、YAHOO!JAPAN(東京・赤坂)との連携で催したワークショップの一環でした。
  JCEJは、本ブログでも何度か紹介しました「スイッチオン・プロッジェクト」から発展した団体で、「発信し、伝え、表現する人々を『ジャーナリスト』ととらえ、必要とされるスキルや倫理について、組織や媒体、立場の違いを超えて『個』として学び合う『場』を創ろう」(呼びかけ人の代表運営委員・藤代裕之さん)という活動を始めました。
  
  ワークショップは13文字の見出し作りの解説を枕に、1 編集方針をつくる 2 当日のニュースのうち約60本から5本を選ぶ 3 見出しをつくる 4 選んだニュースの並びを考える 5 なぜ、その5本なのかを発表する−という内容でした。
  参加したのは、学生のほか、広告、雑誌、新聞、ネットなどのメディアに携わる人、研究者ら。 5人ほどのグループに分かれ、それぞれが「ミニ編集部」を体験しました。

  1の編集方針とは、つまりは「誰を読み手として、何を目的に、どんな役に立つニュースを提供するか」ということ。
  それが決まらないと、机の上に広がった種々雑多なニュースのどれを選んだらいいか−も当然ながら、決まりません。あふれる情報の海に漂うだけです。 私が入ったグループを例に、その作業のプロセスを紹介しましょう。まずは、5人の議論で始まりました。

   「池上彰さんはなぜ、あんなに引っ張りだこなのか?」
  「ニュースにあまり触れない子どもたち向けは?」
  「ワイドショーしか見ていないという人に、分かりやすく伝える−というのは?」
  「日本に住んでいる外国人に、日本を理解してもらえるようなニュースとか」
  「でも、ページビューの数字をを無視していいのか?」
  「ツイッターで話題にできそうな面白い話題がいい」
  「あんまり柔らかすぎるのはどうか。突っ込みどころがないと…」
  「意識の高い人にしか読まれない、というのもどうか」
  「面白いのがいいのか、ためになるものがいいのか?」
  「忙しい就活生のための時事ニュースはどう?」
  「就活生は、ニュースを見てないと企業面接でまずいよ」
  「企業の人が話す話題が分からない、というのが怖い」  
  「でも、就活生もたまにはホッとしたい。そんな話題も欲しい」
−などなど、じつにいろんな意見が出ました。

                     ◇

  そして、決まった編集方針が「就活生を応援するニュースサイト」。就職の現実と接する大学生と院生のメンバーの切実な意見が通りました。では、どのように5本のニュースを選ぶのか? 
  グループの議論で、その1本1本を、ジャンルではなく、「就活生のニーズ」から選ぶことになりました。こんなふうです。

  1 きょうの日本を読む1本 (就活に役立つ) 
  2 ;自分たちの世代に直結(または影響)する話題
  3 ツイッターの話題にして、友人とコミュニケーションできる話題
  4 押さえておきたい1本 (就活や友人との話題にも使える)
  5 世界や社会への知見を養うコラム/リポート

  このうち1には、自分の意見をまとめて投稿し、他の人たちの考えも知ることができる「コメント機能」を付ける−というアイデアも出ました。
  こんな編集方針で実際に用意されたニュースから、初めて5本を選ぶことができました。

  他のグループからは、「飲み屋でつい話したくなる」、「ネガティブなニュースを扱わない」、「ソフトバンクの孫社長との最終面接を控えた○○くんに役立つ」といったニュースサイト、自分よりも落ち込んでいる人がいることを知る「残念なニュース」を集めたサイト〜などの提案がありました。
  バーチャルな実験ではありますが、それぞれに集った5人ほどの顔ぶれが異なるだけで、こんなにも「伝えたい誰か」も違ってくるのです。「誰でも発信できる」時代のメディアの可能性の多様さとともに、そうした「個」の当事者たちの多様なニーズに応えきれなくなったマス・メディアの「選ばれない」危機をも示唆しています。
  また、その過程で選ばれず、捨てられたニュース(永田町発の記事がそうでした)に価値がないのでなく、−それもまた本来誰に向かって何が伝えられたらよかったのか−の検証も、同時に必要となりましょう。
  
   情報を選ぶ、活用する、伝える−は、本ブログの「リテラシーって何?再考〜東宮城野小の教室から」で紹介した、仙台の小学5年生たちが授業で自分たちのニュース番組づくりをすることから学んだプロセスでもありました。
  「誰に向かって、何を伝えるのか」の議論は、逆に言えば「どんな人が、どんな情報を必要としているのか」を考えることであり、さまざまな「当事者のニーズに応え、役に立ち、手助けできる」という、「つながるメディア」づくりの方法でもあります。
  
  この逆転の発想のワークショップ、新聞の若い記者たちにもぜひ体験してもらいたくなりました。


  机の上はニュースの海・・・


  編集方針を書き出し、5本のニュースを選ぶ