2009/08/12 18:50

小説「沙棗」、お読みでしょうか?

 河北新報朝刊の、後ろの方のページに、くらし面があります。
 くらしにまつわるさまざまなニュース、読み物をほぼ毎日お届けしていますが、そのページの一番下に、小説が載っています。昨年10月から連載しているのが、「沙棗 義経になった男」。お読みになっていらっしゃいますか? 筆者は、平谷さんがメールでくださる原稿の編集者で、いわば第一読者の立場です。そこから、ちょっと魅力を語ってみます。

 沙棗とは、蝦夷の若者です。タイトルの通り、義経ものですが、じつは、義経の影武者になった男の物語。 
 大和人に服従し、近江の国に移配された蝦夷の村の暴れん坊が、事件を起こして村を追われ、差別のない平等な国と聞いた奥州・平泉に行きます。そこで藤原秀衡と出会い、大陸の砂漠に咲く「沙棗」(スナナツメ)という花の名を授けられます。
 やがて、同じように親の愛なく育ち、京を逃れて平泉に来た義経とうり二つであることを知り、「影」となって臣従することを命じられます。立場、愛憎ともに複雑で、最も近い他者の目から見た新鮮な義経像で、源平の合戦でも、これまでのヒーロー中心の大河ドラマ調とは異なり、物語もミステリーのように伏線が入り組んで、正邪なく運命に絡め取られる人間のさまざまな生き死にが描かれます。(いま、壇ノ浦合戦のさなかですので、どうぞ、お読みのがしなく)

 歴史ものの新聞小説は、初めての挑戦とのことです。それゆえ、時代小説の作家とは違う新鮮さ、想像力のふくらみが魅力です。その背景にあるのは、平谷さんの幅の広さでしょうか。

 平谷さんは、岩手県金ケ崎町在住で、昨年4月まで中学校の美術教師をされていました。二足わらじの作家活動は長く、ミステリーやホラー、ファンタジー小説の登竜門である小松左京賞を受賞しています。
大阪芸大を出られて、岩手県芸術祭でイラスト部門の最高賞も取ったことがあります。それで、「沙棗」のイラストも、平谷さんがご自身で描いていらっしゃいます。作家では珍しい存在です。

 二足わらじの生活をされていたとき、寝る時間もなく、大変ではなかったですか?と尋ねたことがあります。なにせ、長編を何冊も出しているのです。 「どちらも、好きなことですから」と笑っておられました。やはり、好きなことだからこそ、苦しいときも乗り切られ、いつか実現できるのだと思いました。「好きな夢は、あきらめちゃいけません」とも。 

 夏といえば怪談。筆者はホラーが好きでして、平谷さんとはけっこう趣味が合います。最新刊は、角川から出た「百物語 第8集」。平谷さんが聞き取りをした実体験集です。(筆者の話もじつはひとつ、採用されております)  「ヴァンパイア 真紅の鏡像」(角川)「呪海 聖天神社怪異縁起」(光文社)なども、お気に入りです。
 
 ご本人はルアーの釣りも大好きで、これなどは、郷里の漁港でのハゼ釣りしか知らぬ筆者には、まだ遠いあこがれの世界。また、最近は、短編を原作に、岩手の仲間たちと「黄色いライスカレー」という映画を制作中。その話題もいずれ、報告させてもらいましょう。
 平谷さんが現在、「ふらっと」でホスト役をされている「沙棗」コミュ、「沙棗の隠れ家」も、のぞいてみてください。「沙棗」コミュのオフ会はもう2回催しておりまして、次回は10月、平泉の予定です。